Masuk冬の満月をぼけぇっと眺めていると、つい欠伸がでてしまった。すると肩に乗っている青紫色のペンギンが大袈裟に嘆いた。
「はぁ、情けない」
こんなのはいつものことだから私は気にしない。
この執事気取りのペンギンはシラー・ペルビアナ。親父が投げてくれた袋に入っていた生き人形だ。
「仕方がないだろ。昼間にも働いてるんだ」
「じゃあ、せめて見習いは卒業して生活費を稼げる魔女になって下さい。そしたら昼間は働かなくていいでしょう?」 「……それができれば困ってないっての」この世界の魔女は通常夜に働く。なぜなら妖力という真っ黒な力を使うからだ。
妖力は魔力と違って色んな属性がごちゃごちゃに混ざり合っているだけでなく、私にとって未だ理解不能な夜の力が根源となっている。反対に昼の力を根源としている真っ白い力を霊力と呼ぶ。
悲しいことにどちらの力も私には扱えない。
私は妖力や霊力と違って、この世界に微々たる量しか存在しない魔力をかき集めてなんとかやりくりしている。
だから三十五年――いや、めでたく見習い三十六年目に突入した私が使用できる魔法は、簡単な占いに動物と話す魔法、あとはシビアな条件付きの召喚魔法くらいだ。
覚えた魔法よりもよっぽど強力な種族的な能力も多々あるけど、やっぱり魔力が足りなくて思うようにいかない。
まったくなんだってこんな……いや、愚痴は止めよう。辛くなる。仕事のことを考えよう仕事の……あ。
「シラー、今日はどこまで行くんだ?」
そういえば行き先を聞いていなかった。重大な問題だ。見習い魔女が遅刻など許されることではない。
「さっきからずっと男口調になってますよ。今は魔女なんですから気を付けて下さい」
「わかってるよ。ええと、それで? どこに行くのかしら?」近くに魔女やその関係者がいるわけじゃないんだから別にいいのに。まあ、母にも自分や姉以外の魔女に”私”が本当は男だとバレないようにとキツく忠告されているから、シラーに従ってやらんでもないけど。
「旧水底駅ですよ」
ぶっきらぼうに答えるシラーに目をやると寒そうにしていたので懐に入れてやる。少しだけ嬉しそうな顔をした気がしないでもない。
『嫌だなぁ。旧水底駅は水溜まりのずっ~と底でしょ? ちゃんと行けんの?』
念話を使って話しかけてきたのは私が着ているダークグリーンのローブ。外出用の”私”ぴったりのサイズに縮んだデキるこいつはクリソ・ベリル。響きが可愛くないからベリーと呼んでいる。
「大丈夫よ。だって旧水底駅なら水色のビー玉を咥えて水溜まりに飛び込むだけじゃない」
『そういうことじゃないんだけどなぁ』きっとベリーは水浸しになるのが嫌なんだろう。でも私は水避けの魔法とか使えないから仕方がない。ていうか、そういうことを担当するのはベリーの役目だ。ローブなんだからさ。言うと拗ねるから言わないけど。
「仕事は駅舎の売店の手伝いってとこかしら」
旧水底駅はすべての水溜まりから行けるので利用するものが多い。主に魔物とも精霊とも判断がつかない奴らだ。たまに神の使いや神様も利用しているし、稀に人間もいる。
実は一般人には見えていないだけで、普通にJRRから延びているローカル路線の駅だったりする。つまりJRR職員はこういう一般には知られていない駅や存在を知っているのだ。ちょっと前に流行った、きさらぎ駅とかもこれに該当する。
「旧水底駅名物の新年水溜まり弁当は御利益が凄いですからね」
シラーの言うとおり、あの弁当の御利益は凄い。食べれば一年間、雨上がりの水溜まりの中に必ずちょっとした良い物を見つけるようになる。
ただでさえ新年は挨拶やら初詣で駅がごった返すのに、限定の名物駅弁の販売とくれば、売り子が足りないのも頷ける。
「でも変だわ」
これは見習い魔女に頼む仕事じゃない。難しすぎる。
この仕事は弁当の包装紙に呪(まじな)いをかけたり、お客に合わせて飲み物の調合をしながら接客する。一人前の魔女でもハードな部類だ。
『間違いだったんじゃない?』
「なら帰ってもいいかな。寒いのよ」 「駄目です。これは紫様が頼み込んで下さった仕事なんですから。もし、手が足りなくなったらでいいから白緑に声をかけてくださいと」胸の辺りでぬくぬくしているシラーが厳しい声をを出した。
なるほど。だからさっきの母の微笑みには迫力があったのか。じゃあ今回は特に気合いを入れねばならない。
一応、難関国立大学とされる日本魔女大学の魔女学部、現代魔女学科を最終学歴としている私だ。呪いや魔法はともかく妖力を伴わない調合なら自信がある。
「じゃ、行き先もわかったし早速、旧水底駅に行こうかしら。あそこのコンビニで水を買いましょう」
『え、買えるの?』 「おい、さすがに水くらい買えるっての」いくらお金が無いとはいえ、水溜まりを作る材料くらい買える。馬鹿にしすぎではないだろうか。
「無駄遣いですね。公園の水になさい。あと口調」
公園の水? そんなもので水溜まりを作ってみろ。
「泥まみれで仕事に行くのは嫌なの。だって女の子だもん」
「あそこの公園には噴水があります」渾身のギャクは無視された。しかし噴水か。それはいいじゃないか。
「なら文句無いわ。二人とも、ちゃんと水色のビー玉は持って来てる?」
二人の肯定を確認したあと、私もシラーに渡されたビー玉を咥え、勢いよく噴水に飛び込んだ。
久し振りに調合でお金を稼げるとワクワクしながら。
七環鳴神社の上空は思ったより静かだった。 ただ、眼下には年始の神社特有の神秘と活気の混じり合った景色が広がっている。 一の鳥居から続く参道の両脇にズラリと並んだ屋台の明かりは賑やかしいのに、ニ鳥居より先、拝殿へ続く階段に設けられた苔むした灯篭は厳かな雰囲気を醸していて、油断すると異世界へ迷い込みそうに感じる。 そのくせ三の鳥居の先にある拝殿の周りは再び活気を帯びはじめ、御守りや御朱印の授所だけでなく、甘酒やら名物の七つの環っかを模した七つ餅やリングポテトなんかの屋台に人が群がっている。 「おい、着いたぞ」 未だ決着のつかない話し合いを続けるシラーとベリーに声をかけ、金蔓――もとい、意思ある財布の良司さんを探すよう指示する。 良司さんは仕事終わりに部下たちと初詣へ来ているらしく、JRRの制服を着ているとマラインのメッセージには書かれていた。 『それにしても、まさか良司がJRR職員だったなんて驚きだね』 「本当に。こちら関係の人間だとは気付きませんでした」 なんてことない感じでシラーは言うけど、その顔には痛々しいアザがいくつもある。食が絡んだベリーの容赦のないことよ……。 「何駅勤務かにもよるだろ。JRRの表の顔しか知らないなら一般人だ」 JRRは国鉄の時代よりずっと、神々から幽霊、妖怪に至るまで、普通の人間にはなかなか視認できない存在の為の駅や路線も運営してきたのだ。 民営化するときに、そっち関係だけは国営のままにって声も多かったらしいが、普通の路線に混じってそれら用の駅も設置されているから、会社を分けると管理が難しいって理由でまるっと民営化されたという。 つまり皆が知らないだけで、実は神々や幽霊、ヤバい妖怪も日常的に同じ電車に乗ってたりするから、電車内の迷惑行為って文字どおり命がけの行為なのだ。 まあ見えなくとも、幼い頃から日本で育った人であれば、無意識にでも何かしら気配を感じ取ってる人が多いから問題はあまりないらしいし、そうじゃなくても常識ある人は普通は問題を起こさない。 だからたまに動画で流れてきたりする強烈な迷惑行為者はだいたい、後に悲惨な末路を辿ってるって話だ。 しかしあれだな。 JRR職員って儲かるんだな。 毎度毎度、良司さんは高額なご飯を御馳走してくれてお小遣いまでくれるんだから……あ、だからアイツは一時期JRR職員ばか
さて、仕事はどっぺる君に丸投げ……もとい依頼したからいいとして、神社巡りをするにおいて解決しなくちゃいけない重要事項がある。 お金よ。私だけなら御神木をに甘い言葉を囁いて誘惑し、樹液をチューチュー吸わせてもらえば無料で楽しめる。 でも使い魔たち、特にベリーは屋台の祭り飯を心いくまで食べるはず。当然、小学生レベルのお小遣いを渡したとて足りるわけもない。かといって私の財布も温もりを忘れていく久しい……。「良司さんに頼るか」 ぼそっとこぼれ出た言葉にシラーがまたも侮蔑の表情を見せた。「パパ活するんですか? また?」「人聞きの悪いこと言わないで。ただ同年代に奢ってもらうってだけよ」『同年代だけど良司は白緑より何個も下でしょ? 歳下にタカるなんて恥ずかしくないの?』 ほとんどベリーのための行為なのになんたるもの言いかしら。でもこいつの機嫌を損ねては寒空に下着一枚で放り出されるかもしれない。仕方ないからグッと堪えて回答する。「ひとっつも恥ずかしくないわ。今は歳なんて関係なく割勘や奢り奢られが普通の時代よ。もう昭和や平成じゃないんだから」『昭和や平成でも白緑が奢ってるとこ見たことないけどね~』「ああ情けない」 やかましいベリーとシラーは無視して良司さんへ連絡するためポケットからスマホを取り出す。 安全性は疑わしいけれど、すべての昨日が無料のマラインと書かれた緑色のアイコンをタップする。 片手でパパっと入力した『一緒に初詣へ行きませんか?』を見てしばし……削除ね。たぶん良司さんは『一年の始めは良司さんに会いたいです』とか言った方が釣れると思うのよ。「もうちょっと色気を出した方がいいじゃんないですか? 良司は男姿の白緑に興奮するわけですし、ア●ルが疼いて仕方ないとか書くべきですよ」「は? 俺と良司さんはそんな関係じゃないぞ」 偉そうな態度で蔑んてきたくせにスマホを覗き込み下品な提案をするシラーに、つい、男口調で応えてしまった……ていうか仕事に行かないんだ、このタイミングで俺に戻ろう。『でも良司は狙ってる思うんだよね、白緑のア●ル。だいたいさ、男盛りの真っ只中の中年からお金を巻き上げようってんだから色気は必須だよ?』 今度はベリーがシラーと似たようなことを言う。 なんだこいつら。変な文面を送って人格を疑われるのは俺だ
冬の満月をぼけぇっと眺めていると、つい欠伸がでてしまった。すると肩に乗っているシラーが大袈裟に嘆く。 「はぁ、情けない」 こんなのはいつものことだから気にしないわ。 「仕方がないじゃない。昼間にも働いてるんだもの」 「じゃあ、せめて見習いは卒業して生活費を稼げる魔女になって下さい。そしたら昼間は働かなくていいでしょう?」 「……それができれば困ってないわよ」 私たち以外誰もいないのに、私の姿に合わせた口調をしているのに褒めもされない。まったくなんだってこんな……いえ、愚痴は止めよ。辛くなるもの。仕事のことを考えるのよ仕事の……ん? まただ。またデジャヴだわ。 「ねぇシラー、私ね、今日はなんだかデジャヴがすごいのよ」 「はぁ? だから何だっていうんですか?」 「デジャヴって良くないことの前触れっていうじゃない?」 「……で?」 シラーがうっすら目を細めて私を蔑んでいる。きっとこれから何て言うかわかっているのね。 「仕事には行かない方がいいと思う」 案の定だった。 私の発言を聞いたシラーが、ぎゃあぎゃあ喚いて頬っぺたを突いてくる。こいつは木彫りの生き人形だからけっこう痛いのよ。 『白緑が夜食をたんまり奢ってくれるっていうなら、ぼくはそれでもかまわないよ』 羽織っているベリーが加勢してくれる。 けれど奢るなんてことはしないわ。明日には会費のバカ高い同期会があるのだから。 なら仕事に行って稼いでくればいいと言われそうだけど、どうせ依頼主は私が見習い魔女だと軽くみて、ギャラを買い手のつきにくい難ありの現物支給にするはずよ。 よくあることだもの。 魔女協会経由で何度抗議しても止めてくれない。きっと協会も黙認しているのよ。あのクソババアども。いつか痛い目見せてやるんだから。 「バックレなんて絶対に駄目です。これは白緑のために紫様が頼み込んで下さった仕事なんですから。もしバックレなんてしたらどんなお叱りにあうか考えただけでも恐ろしいですよ。立派な使い魔の私が言うんです。自重なさい」 なるほど。だからさっきの母さんの微笑みには迫力があったのね。 「でもなぁ……直感って大事にした方がいいって母さんもよく言ってるし、行かない方がいいと思うのよねぇ」 『神社をはしごしようよ。今日はど
――零時前にこの世界での両親、竜胆紫と勝蔵夫婦にリビングへ呼び出された。 古ぼけた時計が翌日を告げると同時に出されたのは、四十六本の蝋燭が綺麗に並べられた真っ白なケーキ。 それはテーブルの真ん中に置かれ、母がささっとお猪口を三つ配ると、父が辛口の日本酒を並々注いでいった。「お誕生日おめでとう、みどりちゃん」 「まあ、これから世話になるのは儂らの方かもしらんがの」「確かに。父さんはずいぶん老けたよな」「みどりちゃんはあんまり変わらないわよね。ずっと可愛いしカッコいいなんて羨ましい。吸血樹鬼っていいわね」 ……ん? この会話、なんだか前にもしたことあるような気がする。デジャヴか?「あ、ああ……まあいつまでたっても子供っぽいってだけだよ。不便の方が多い」 「変わらんものがあるのも悪くない。ほれ、お前の分だ」 勝手に蝋燭を吹き消し切り分けていた父が手を止め、七号のホールケーキからおよそ二人分を除いた残りをズイッと差し出してくる。「……多くない? ていうかなんで七号サイズなの?」 「あら、だって小さいと蝋燭並べるのが大変でしょ?」 母は何を言ってるんだと言わんばかりに俺を見てから、迷わずケーキを彩る苺にブスッとフォークを刺した。 これもだ。既視感の極み。 ただ、何かを思い出しそうで思い出せないもどかしさは、苺と生クリームのどちらを先に食べようかという難題の前ではどうでもよく、うんうん悩んでいると、風呂場の方から二つの気配が近付いてきた。 リビングのドアが小さな音を立て、冷たい空気が室内に流れ込んでくる。 嫌な予感に顔をしかめつつ振り向くと、そこには執事服を着た二十センチほどの青紫色のペンギンと、二メートル強はあるダークグリーンのローブが立っていた。 出掛けるから早くしろと言わんばかりに、バッチリ防寒してる。 ローブが防寒って変な話だが、そんな感じなんだから仕方がない。「ええ~? 今から? シラーもベリーも急すぎだよ」 急いでケーキを頬張って”今は無理感”を演出してみる。「万年見習いがお情けで頂くありがた~いお仕事なんですよ。時と場所なんて選べるわけありませんよね?」 そう言ってテーブルに飛び乗ったペンギンことシラーが目を細める。 命あるローブのベリーもドアの横でポフポフと音を出して肯定していやがる。「みどりちゃん、行って
穴底に着くより早く土煙が収まった。 というより煙が竜巻みたくなったと思ったら、そのままある一点に集まって小さな石になったんだ。 そして露になったグラスル。うっすら白い防御膜に覆われて鋭い眼光を放っていた。 ただグラスルの後ろにいる司祭たちは、びっくりするくらいおどおどしている。 「どういうつもりかの?」 「どういうつもりもなにも、殺《や》られそうになったお返しだけど」 「ほう、これは不思議なことを。良き関係を築けていたと思うておったのは儂だけか? シスター竜胆よ」 シスターと呼ばれて性別のことを思い出した。咄嗟に大人の私に変身しようとしたが上手くいかない。それを察知したベリーがシスター服に変わってくれる。 ものすごくダボダボしているけど、ピ●チュウよりはましか。 ただ、その一瞬の隙を見逃さなかったグラスルに術を発動されてしまう。 大穴の壁から巨大な手が出てきて俺をがっちりと掴んだ……ん? 大したことないわこれ。 ヤバいと思ったけど魔力たっぷりの今の俺なら、ちょっと力を入れれば砕ける程度の術だ。 「ほぅ、儂の拘束術をこうも易々と……やるのぉ」 「そりゃどうも。で、さっきの返事だけど、私の考える良き関係って、騙し合いはしても殺し合ったりはしないものなのよね」 どうやら声帯だけは私になっているらしく、声は私の声が出せた。 「マルテーノのことは――」 「タラサッキもよ。死ねーーーって叫びながら、殺意たっぷりの霊力波を撃ち込まれたもの」 「なに!?」 グラスルは後ろで震えているタラサッキに目を向けた。しかしタラサッキはぶんぶん首を振って否定する。 「あ~やだやだ。これだから若い聖職者は。付き合ってらんないっての」 あ~、なんかもうすんごい面倒臭くなってきた。 さっさと日本へ帰って三食昼寝とおやつを貪る生活に戻りたい。 「確かバチカンには過去を映し出すテレビがあったよな。あとはそれを見て真実を見極め――ぶぇ!?」 言いながら逃げようとしたところで、目映い光が全てをホワイトアウトさせた。と、同時にアポカリプティックサウンドのような音が響き渡り、気付けば俺はぶっとい蔓で締め上げられていた。 何事かとしぱしぱする目を懸命に凝らすと、グラスルたちも同じような状態になっているのが見
どれくらいの時間だろう、薄暗い大穴の底で俺はこの三十六年が無駄ではなかったと自分に言い聞かせていた。 その甲斐あって、多少もやもやは残っているものの、なんとか落ち着きを取り戻せた気がする。 「寒いな」 ベリーじゃない服は勝手に温かい服にはなってくれない。そんな当たり前のことに気付き、ベリーを羽織ろうと立ち上がった。 「あっ……」 なんてことだ。俺はまだ十歳姿のままじゃないか。 イードの言っていたことが真実なのでは、と再び焦燥感に襲われる。けれど挫けそうになりながらも、なんとかベリーを起こして袖を通した。 『ね、ねぇ白緑、イード様は?』 「帰った」 『本当に!? よ、良かったぁ~!』 ベリーは心底安心した様子で、某有名ゲームのピカピカ鳴くキャラクターのキグルミパジャマになってくれた。温かい。そして恥ずかしい。 「励ましてるつもりか?」 『え、なにが?』 あ、そうか。ベリーは失神してたから知らないのか。単に俺が十歳姿に変身してるだけだと思っているんだろう。 「シラーも起こそう」 不思議がるベリーを無視してシラーをビンタする。それでも気持ち良さそうにスヤスヤしているシラーに少しムカついた。 今度は近くに転がっていた石で殴り付る。するとフガフガ鼻を鳴らしながら目を覚まし、ハッとして、ベリーと同じことを尋ねてきたから、帰ったと伝えると、これまたベリーとまったく同じ反応をしていた。 そして例の話をする―― 『そ、そんなのってないよ。酷すぎるよ』 「……イード様は無属性の魔法も得意でしたよね?」 今度はベリーとシラーでまったく違う反応をした。ベリーは同情して泣き、シラーは思案顔で質問してくる。 とりあえずシラーの質問だが答はイエスだ。 イードは森の化身のくせに無属性、とりわけその二段階上のレア過ぎる最上位属性の魔法を最も得意としている。 「若返りの魔法をかけられたとかでは?」 ありうる。 しかし、それなら記憶も十歳の頃に戻ってないとおかしい。若返りの魔法は外見のみに作用する都合の良い魔法なんかじゃない。 けど、あのぶっとんだイードのことだ。強引に魔法の何かしらを書き換えて、それすら可能に……うう、それはそれで恐ろしいな。あのちゃらんぽらんが、副作用とかそんなのを考慮するはずないんだから。 この世
いや、待て、落ち着け俺。 まずチンコロは違う。別に俺と阿叢で悪巧みしてたわけじゃないんだから正しくは通報……それにしたって俺を放置してそんなことするか普通。 あ、サイレンが止まった。 速すぎる。阿叢が電話を切ってからまだ一分も経ってないのに。「安心しろ。この国一番の正義の味方を呼んだから何の問題もない」 爽やかな笑みを向けてくる阿叢に目眩がした。馬鹿じゃないのか。問題だらけだろ。そもそも俺が助けてくれと言ったか? いいや、言ってない。 しかもかなりデリケートな告白だったはずだ。それを本人の了承もなしに秒で騒ぎにするとは何事か。 まあ全部嘘だからいいものの、もし本当だったら俺
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目が覚めると憎き親友たちはいなくなっていた。そりゃそうか。一週間も寝てたらしいからな。 幸い”私”を保ったまま意識を失ったので秘密は守られたままだ。良司さんとベリーに聞いても目が覚めるまで”俺”に戻ることはなかったという。 ちなみにシラーは未だ便器とランデブーしてるらしい。それから盗撮の類いの魔法が心配だったので、今ジャックに確認してもらっている。 あいつらはいつだって誰かの弱味を握って危険な仕事をさせようと企んでいる。それも無報酬で。俺も何度危ない橋を渡らされたことか。ていうか橋すら無かっ
さて、すったもんだあったが衣食住の衣と住は確保できた。 衣は元々ベリーが担当していたから新鮮味はないが、住となった良司さんの家はなかなかに居心地が良い。本当、使い魔様様である。 あとは同じく使い魔のシラーが食を担当してくれれば言うことなしなのだが、どうも困ったことにゴキブリ魔王がでしゃばってくる。「我は家事が得意なのだ。すべて任せるがよい」 などど言って、昼食を作ろうとキッチンに立とうとするのだ。 いくら見た目が長い触角を持ったイケメン魔王とはいえ元はゴキブリ。ばっちいの次元を遥かに越えている。例え何かの過ちで許したとしても、あっという間に正気に戻ってキッチン丸ごとP●ファイアー